創世記機械 ジェイムズ・P・ホーガン著/山高 昭 訳

Hogan_THE_GENESIS_MACHINE創世記機械

世界はイデオロギーによって西側と東側に分断され、経済政治情勢は悪化の一途をたどっています。学術的な研究も軍事や防衛が優先され、優秀な研究者もどこで何を研究するかという自由は与えられていませんでした。

主人公の理論物理学者ブラッドリー・クリフォードも同様にアメリカ政府の研究機関ACREで半強制的にミサイル迎撃レーザーの研究をさせられていて、科学技術が政治の道具として従属させられている現状に不満を持っています。彼の真の興味はK理論と呼ばれる重力、電磁力、空間、時間、エネルギー、物質等といった現象を相関する一組の方程式で結合する統一場の数学理論でした。

上司との衝突により政府の研究機関ACREを辞職したクリフォードは私的研究期間でK理論の研究を継続していますが、その理論を独占したいACREにより機材調達などで妨害を受けるようになります。

その状況を打破する為にクリフォードらはK理論の東西対立の手詰まりに直面し切り札を求めていた政府の軍事的利用の要求をやむなく受け入れます。

こうしてクリフォードとその相棒オーブリー・フィリップスにより創られたJ爆弾(人工ブラックホールに集めた高次放射エネルギーをK空間を通して任意の場所に移動させる)が完成しますがクリフォードは科学の政治への隷属、世界の兵器による危機を一掃する一計を案じていました。

爽快な読後感です。物語の核となる理論は架空なのでしょうが実際ありそうに感じさせられます。物質が消滅する際に重力が発生したり、物質消滅場を圧縮することによって人工ブラックホールを作る点などはホーガンの別の作品のガニメアン文明にも通じているように思います。

エピローグではクリフォードが見出し、フィリップスによって実証された理論が更に発展し実用されている様子も描かれています。SF好きにはお勧めの素晴らしい空想科学小説です。

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